完璧な涙

感情が生じさせた涙は
時間を封じ込んだ水球
       神林長平『完璧な涙』より

涙というものが時間を封じ込んだ水球なら、あれは吉澤さんのこの一月という時間を封じ込んだ水球だったんだんじゃないかと思う。
いやあ、改めてここ一月を振り返って、何て濃い一月だったんだろうと。
多分、こんなに濃い時間はそう人生に何度もあるもんじゃないし、いくら吉澤さんだって、そう何度もは勘弁だろう。
5月6日、さいたまで今にもこぼれ落ちそうな涙を、笑顔に変えた人だった。
きっと、自分のために人が泣くのとか、自分のためだけに人前で泣くのが苦手なんだろうと思う。
だから、メンバーの目から涙がこぼれそうになると、笑わせ、宥め、抱きしめて、止めようとした。
そうしないと、自分も泣いてしまうから、それだけはしたくないから、結構必死で踏ん張ってたんじゃないかな。
それから、気持ちを切り替える暇もなく、ラジオ・TVの撮り、ガッタスの試合、まいちんとのDS、そして、このお芝居とあって、本当に懸命に走り続けてた。
特にこのお芝居は、受けた事情が事情、完全にアウェイの仕事で、失敗は許されない。役柄は重要で、台詞も大量、ダンスもアクションもある。何よりこのお芝居のテーマは、吉澤さんにとっても大切にしたい事で、お芝居を壊したくない気持ちは人一倍あった筈。
そして、これは吉澤さんが吉澤さんとして、娘。の看板を背負わずに立つ、初めての舞台。逃げられないのだ、何があっても。もう代わりはいない。自分が自分の力だけで、この難局をどうにかしなきゃならない。
それでも、彼女は笑顔で、人一倍明るい笑顔で自分達の前に立っていた。そんなこと、なんて事ないんだよ、とでも言いたげに、ふわふわといつもみたいに笑ってた。
そんな吉澤さんの涙がついに昨日決壊した。
自分は少し遠い席で、良く見えなかったけど、それはもうぼろぼろと泣いてたらしい。
お芝居をやり遂げた満足感もあるだろう。プレッシャーからの開放感もあるに違いない。温かく迎えてくれたカンパニーの人達と離れる寂しさや、いいお芝居に出れたと感謝の気持ちもあるかも知れない。
だけど、あれは、共演者の人達が「おまえもトンパオ」と書いてくれた気持ちが、お客さん達の拍手が、卒業から始まって、いろいろあったことのわだかまりや辛さや何もかもを押し流して、零れた涙なんだと思う。
何かさ、この期に及んで自分のためじゃなしに、人の気持ちの温かさに涙してしまう辺りが、とても吉澤さんらしい気がするよ。
でも、そうやって流れる涙は綺麗だと思うし、正直いいよね。
これからも、そういう涙を流す瞬間が、吉澤さんに何度も訪れればいいなあ(ま、必要以上に忙しいのとか、理不尽な扱いとか、そういうのはごめんだけどね(笑))
いやあ、いい年ぶら下げて、いい加減すれっからしな自分みたいな奴でもさ、頑張ればいつか報われる、みたいな夢みたいなことを、信じたくなる瞬間だったよ。
ああいう瞬間に立ち会えるから、現場通いが止められないんだよな(苦笑)
明日は、いよいよ大千秋楽。熱い熱いトンパオ達に会えるのもこれが最後。目一杯楽しんで、精一杯コールしてきます。はい。